2024年度入試を振り返って

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3/1の合格発表をもって2024年度入試が終わった。

今回の入試は受験生全員が第一志望合格という結果となった。



「全員合格」という字面だけを見れば「無事に」入試を終えたように映るかもしれないが、そこに至るまでの過程にはさまざまな苦悩や葛藤があった。

規模の小さい塾ゆえに書けることと書けないことがあるが、受験を終えた生徒たちが、そして私たちが前進していくためにこの1年を振り返りたい。

初めて実施する「受験生決起会」

5期生は10名で受験生活をスタートした。

新年度を迎えるにあたり、副塾長の生田目の提案で「受験生決起会」を行った。

彼らとともに人狼ゲームをし、ささやかながら食事を楽しんだ。

日頃からマスクをしている生徒たち。

お互いにその場ではじめて素顔を見た、という子もいたと思う。

普段は真面目に授業を受けている彼らも、このときはいかにも中学生らしく、楽しそうに過ごしていた。

ほんの少しだけ彼らの心理的距離が近づいたような気がした。

会の最後にこんな話をした。

福永

ここにいるみんなで一緒に頑張って、受験生活を楽しく乗り切ろう。そしてお互いがお互いを高め合える、そういう集団になっていこう。

もちろん私たちも彼らを合格に導くべく、気合いを入れて授業に臨んだ。

前途多難な一学期

しかし、1学期はまさに前途多難であった。

授業が始まった直後に

「先生、授業のプリントを持ってくるのを忘れました。」
「先生、ぼくも忘れました。」
「私も忘れたのでコピーさせてください。」

ということが何度もあった。

そのたびに私や生田目がプリント管理の仕方を伝え、万が一忘れてしまった場合の対応の仕方(授業前に先生にもらいに行く、友だちにコピーさせてもらう等々)を伝えたが、なかなか改善されなかった。

また

「宿題をやっていません。」
「半分しか終わっていません。」
「丸つけが終わっていません。」
「やったけど家に忘れました。」

ということも頻繁に起きた。




このようなことはいかにも「塾あるある」だと思われるかもしれないが、弊塾においては極めて異例の状況であった。

弊塾には小学生から高校生まで、どの塾生にも「宿題をちゃんとやるのは当たり前」という共通認識がある(と思う、たぶんある、あってほしい)。

もちろん宿題のやり方、取り組みの乱雑さについて指導することはあるが、私が「宿題をやっていない」ことを注意するのは年に数回程度の認識である。

塾の中で、最も熱心に勉強しているはずの受験生がこの状態だった。



持ち物忘れや宿題未実施があるたびに、私たちは彼らに注意をした。

注意をすれば、たとえそれが短い時間であろうと教室は重苦しい空気になるものだ。

注意したあとは後腐れの無いようにガラッと雰囲気を変えて授業をするが、そういった注意が何度も続けば、やはりクラスの雰囲気に影を落とす。

私たちは塾生全員に楽しく塾に通ってもらいたいと思っているが、その「楽しく」とは塾における最低限の努力を一人一人がきちんと行った上でのお話である。



受験生だったら尚のこと、やるべきことはやらないといけない。

受験生である彼らが入試に向けて成長し結果を出すためにも、また塾として譲れない部分を守るためにも、看過できなかった。

同時に、その教室には毎回きちんと持ち物を持って来て、毎回きちんと宿題に取り組み、毎回真面目に授業を受けている子たちもいた。

その子たちに対する申し訳ない気持ちも常に感じていた。

決起会の最後に私が言った「お互いがお互いを高め合える」とはまるで反対の、「お互いがお互いの足を引っ張る」状態が続いた。

喋らない、喋れない子供たち

決起会を行ったのは彼らが本当の意味で受験生になるためのきっかけづくりの一環だが、この会には彼らの中でのコミュニケーション量を増やすという裏テーマがあった。

5期生は本当にしゃべらない、あるいは、しゃべれない子が多かった。

休み時間は、それぞれがスマホをいじり、教室はシーンと静まり返っていた。

所属する中学校がバラバラということもあったが、待てど暮らせど、彼らがお互いに話しかけるという様子はほとんど見られなかった。


日頃のコミュニケーションが少ないということは、自分の言葉で相手に意思を伝える機会が少ないということである。

授業中の彼らとの問答の中でも、日頃の会話でも、「相手の話をきちんと理解して受け止め、それを踏まえて自分の考えを相手にきちんと伝える。」ということを苦手とする子が多かったように感じられたし、これが日頃のコミュニケーション量と無関係だとはどうしても思えなかった。


状況を危惧し、ついに「スマホ禁止令」を出した。

福永

休み時間にスマホをいじるのを禁止します。日常会話ができないのに、勉強だけできるようになるわけありません。なんでもいいから、とにかく人としゃべりなさい。スマホに、自分の世界に逃げるな。

そんな話をした。

私は生徒たちを縛るようなルールをつくることは極力しない主義だが、そんなことを言っていられなかった。

もちろん私たちもできるだけ彼らとのコミュニケーションを増やそうと、積極的に関わった。

夏、変化の兆し

そんなこんなで1学期があっという間に終わり、夏期講習になった。

4期生がそうであったように、夏期講習がその学年の雰囲気をガラリと変えることがある。

夏期講習に入ると、思いの外、彼らは奮闘した。

毎日8~10時間程度勉強し、宿題や小テスト勉強に取り組んだ。


そして8月下旬には1day合宿を行った。

1day合宿では、ある子は丸一日「英語長文」、ある子は丸一日「一次関数」といったように、各自が苦手なものに絞って取り組んだ。

晩ご飯は合宿所の近くのお寿司屋さんに行き、みんなで食卓を囲んだ。

寿司を食べる子供たち

ふだんはあまりしゃべらない子が近くの子に「まぐろ頼む人~?」などと声をかけたり、女子たちはデザートを大量に頼んだりして、楽しそうにしていた(女子のテーブルは、お会計がすごいことになっていた)。

合宿から帰ってくると、彼らだけでしゃべる姿を多く見かけるようになった。

夕食休憩の時間には、みんなで色んな話をしながらお弁当を食べていた。

こういう何気ない時間が、彼らの日々の勉強の気分転換になっていたと思う。

一日の授業が終わったあと、私が彼らに話しかけるときに「中3生のみなしゃん。」と噛んでしまったときなど、みんなでゲラゲラ笑って帰っていった。

そんな彼らを見て、「だいぶ変わったなぁ。」と嬉しく思った。

前途に重畳する課題

2学期。

夏期講習で勉強をした子たちは、その勉強を通じて「自分がいかにモノを知らないか」「やらなければならないことがどれだけたくさんあるか」を痛感する。

学べば学ぶほど、さらに学ぶ必要性を実感する。

入試まで残り5ヶ月。

課題は山積である。

部活動が無いとはいえ、中学校生活、学校行事、毎月の北辰テスト、検定、学校説明会、個別相談会と、様々なイベントに追われる時期である。

そんな中で新しい知識を頭に入れながら、弱点も埋めていかなければならない。

だから、弊塾の中3生は毎年、中学校が終わると夕方から毎日自習に来る。

そして22:30まで勉強する。

それくらい勉強したとしても、やるべきことはなかなか減らない。


しかしそういう時期にもかかわらず、一部の生徒は未だ全力で目の前の課題に取り組むことができずにいた。

そういう子たちは塾の自習に特段の理由がなく遅れたり、小テストを溜め込んだりしていた。

やるべきことが溜まると、いろんなことが間に合わなくなり、次第にやり方が雑になる。

勉強のやり方が雑になれば、当然私からツッコミが入る。

受験はライバルとの戦いであるのと同時に、楽をしたい自分との戦いでもある。

私は受験を通じて彼らに「迷ったら厳しいほうを選べ」という行動指針を身につけてもらいたかった。

保護者や私のような他者から厳しくされるのではなく、自分自身を律する力を身につけてもらいたかった。

楽を選びがちな子と、それではいけないよと叱る私と。

私にとって、苦悩しながらの日々だった。


一方で、その真面目な気質から頑張りすぎてしまう子や、頑張りたい気持ちが体調面に出てしまう子もいた。

頑張るべきときに頑張りきれないのも考えものだが、頑張りすぎてしまうことにも十分に気を配ってあげないといけない。

とくに中学生にとって、自分の体調やメンタルのコントロールは非常に難しいことだと思う。

周りの大人が常に気を配り、小さなサインを見逃すことなく、指導にあたらないといけない。

こういう子には、日々体調や気分をうかがい、ゆっくりと話を聴くようにした。

また、頑張っているにも関わらずなかなか結果につながらないことに焦る子もいた。

模試の内容を一緒に分析し、

福永

ふだんの授業の出来を見ていても、この教科はちゃんと実力がついているから安心してコツコツやっていけばいいよ。この教科はここで点数を落としているから、このテキストで基礎固めをしよう。

といった話をした。


彼らとこのようなやりとりをすると同時に、保護者の方々ともできる限りやりとりを行うように心がけた。

塾であった出来事をなるべくタイムリーにお伝えし、共有させていただいた。

彼らの家での様子を教えていただいて、なるべく総合的に判断できるようにした。

日々忙しい中にも関わらず、こまめに連絡してくださる保護者の方々と連携があったからこそ、彼らとのやりとりも安心して行うことができたと思う。

保護者の方々との二人三脚の中で塾生たちを見守る体制をつくれていることは本当にありがたいことであるし、塾として今後も大切にしていきたい。

伝えてきたこと、伝わっていたこと

こうして文章にしてみると大変なことばかりだったように思われるかもしれないが、決してそんなことはない。

中2のときはなかなか集中力が続かずに勉強するのもひと苦労といった子は、自らの意思で勉強に没頭できるまでに成長した。

英文法の知識がごちゃごちゃだった子は、「過去分詞が名詞を後置修飾しています。」なんてことが言えるようになった。

ひと足早く私立入試を終えた子は入試終了後も当たり前のように黙々と勉強に取り組むことで、公立入試を受ける子たちにエネルギーを与えた。

勉強でなかなか自信を持てずにいた子は、入試が近づくにつれてどんどん頼もしく見えた。

一時期は塾を辞めたいと言っていた子も、クラスを引っ張る存在になってくれた。

なかなか頑張りきれなかった子も、ラクしたい気持ちと戦い、勝ったり負けたりしながらも最後まで走りきった。

全員にその子なりの大きな山や谷があって、その中で成長してきた一年だったと思う。


受験後の3/3、受験慰労会を行った。

集合写真
カラオケ
カラオケ

受験生活を終えた彼らから出てきた言葉は、まさにこの文章で私が見てきたこと、感じてきたことと完璧にリンクしていた。

彼らが「これから頑張りたい」と言ったことは、私たちが一年をかけて彼らに伝えてきたことそのものだった。

「あぁ、ちゃんと伝わっていてくれたんだな。」

とても嬉しい気持ちになった。


~生徒たちへ~

あらためて、第一志望校への合格、本当におめでとう。この一年はきみたちにとってどんな一年でしたか。自分でもびっくりするくらい成長できたところもあるだろうし、「頑張りきれなかった」と後悔しているところもあると思います。私にも君たちの成長を喜ぶ気持ちと同時に、まだまだきみたちが変われたのではないか、成長できたのではないかという気持ちの両方があります。きみたちの高校受験はこれで終わりですが、高校生活、そしてその後の人生はこれからですね。きみたちの中に「やり残した」という気持ちがあれば、ぜひこれからの生活の糧にしてください。

充実した高校生活を送ってくださいね。応援しています。

~保護者の皆様へ~

お子様の高校合格、おめでとうございます。お子様の成長や合格をともに喜ぶことができ、とても嬉しく思います。お子様は楽しく塾に通えていたでしょうか。学力がついたと感じられるでしょうか。大人びた表情をするようになったと感じられるでしょうか。

ご本人様の抱える葛藤と同じ、もしくはそれ以上に、保護者の皆様にも葛藤があったと思います。そのような中、温かく見守っていただき本当にありがとうございました。



この記事を書いた人

塾長
ふくなが

進学塾unitの塾長。数学・英語・理科担当。生徒と保護者、スタッフの笑顔を見るために日々邁進中。基本的にいつも機嫌が良く、無駄に元気。

趣味:将棋(将棋ウォーズ1級)、コーヒーを飲みながらカフェで数学、ダイエット 特技:リバウンド

進学塾unitの塾長。数学・英語・理科担当。生徒と保護者、スタッフの笑顔を見るために日々邁進中。基本的にいつも機嫌が良く、無駄に元気。

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